発心集

『方丈記』の作者として知られる鴨長明(1155-1216)晩年の編著。 流布本は八巻102話であるが、現存しない三巻本が最も原型に近いと考えられ、そのほか五巻62話の異本もある。 人間の心の葛藤、意識の深層を透視したことで、従來の仏教說話集にはない新鮮さがある。

発心集(ほっしんしゅう)鎌倉初期の仏教說話集。『方丈記』の作者として知られる鴨長明(1155-1216)晩年の編著。建保四年(1216)以前の成立。「長明発心集」とも。仏の道を求めた隠遁者の說話集で『閒居友』、『撰集抄』などの說話集のみならず、『太平記』や『徒然草』にまで影響を及ぼし、これがいわゆる說話の本性というべきものである。
流布本は八巻102話であるが、現存しない三巻本が最も原型に近いと考えられ、そのほか五巻62話の異本もある。伝本に古寫本は無く、慶安四年片仮名本と寛文十年平仮名本が版本として刊行された流布本であり、神宮文庫本が五巻の近世寫本である。
天竺・震旦よりは本朝に重心を置き、発心譚・遁世譚・極楽往生譚・仏教霊験談・高僧伝など、仏教関系の說話を集錄。仏伝からの引用が多い。長明自身を含む隠遁者(西行が有名)が登場人物の主體をなす。盛名を良しとせず隠遁の道を選んだ高僧(冒頭の玄賓僧都の話など)をはじめ、心に迷いを生じたため往生し損なった聖、反対に俗世にありながら芸道に打ち込んで無我の境地に辿り著いた人々の生き様をまざまざと描き、編者の感想を加えている。人間の心の葛藤、意識の深層を透視したことで、従來の仏教說話集にはない新鮮さがある。
三木紀人校注で「新潮日本古典集成」に『方丈記』と並錄。(新潮社 1976年)
なお梁瀬一雄など一部の研究者からは、流布本の巻一~六と巻七・八では背景となる思想などが異なるとして「流布本の巻七・八は別人による増補ではないか」との指摘がされているが、高尾稔など増補說に否定的な見解を取る研究者も多い。いずれにせよ古寫本が現存していない狀況のため、論爭に決著をつけるのは困難な狀況である。

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