內容介紹
成立年ははっきりしないが、序と本文の記述から、弘仁13年 (822年) とする説がある。著者は奈良右京の薬師寺の僧、景戒である。景戒は、妻子とともに俗世で暮らしていたと記しており、國家の許しを得ない私度僧に好意的で、自身も私度僧だったという説もある。上巻に35話、中巻に42話、下巻に39話で、合計116話が収められる。それぞれの話の時代は奈良時代が多く、古いものは雄略天皇の頃とされている。場所は畿內と周辺諸國が多く、特に紀伊國が多い。登場する人物は、庶人、役人から貴族、皇族に及び、僧も著名な高僧から貧しい乞食僧まで出てくる。
説話自體が事実を伝えるものではないとしても、その主題から外れた背景、設定からは、當時の世相をうかがい知ることができる。田に引く水をめぐる爭い(上巻第3)、盜品を市で売る盜人(上巻第34、第35、下巻第27)、長期勤務の防人の負擔(中巻第3)、官営の鉱山を國司が人夫を使って掘ること(下巻第13)、浮浪人を捜索して稅をとりたてる役人(下巻第14)、秤や桝を使い分けるごまかし(下巻第20、第26)などである。また、『霊異記』の警告に反し、実際の俗人の生活様式が殺生と無縁ではなかったこともわかる。
編纂の目的から、奇跡や怪異についての話が多い。『霊異記』の説話では、善悪は必ず報いをもたらし、その報いは現世のうちに來ることもあれば、來世で被ることも、地獄で受けることもある。説話の大部分は善をなして良い報いを受けた話、悪をなして悪い報いを受けた話のいずれか、あるいはその両方だが、一部には善悪と直接かかわりない怪異を記した話もある。
仏像と僧は尊いものである。善行には施し、放生といったものに加え、寫経や信心一般がある。悪事には、殺人や盜みなどの他、動物に対する殺生も含まれる。狩りや漁を生業にするのもよくない。とりわけ悪いこととされるのが、僧に対する危害や侮辱である。と、これらが『霊異記』の考え方である。
転生が主題となる説話も多い。説話の中では、動物が人間的な感情や思考をもって振る舞うことが多く、人間だった者が前世の悪のために牛になることもある。
作者介紹
生沒年不詳、奈良時代の薬師寺の僧。日本最初の仏教説話集『日本霊異記(日本國現報善悪霊異記)』の著者として知られる。出自については不明であり、その記述から紀伊國名草郡の大伴氏の出身とする説が有力であり、また私度僧(國の許可を得ず僧を稱したもの)の説話が多いことから、景戒を私度僧とする説もあるが定かではない。ただ妻子や馬を持つなど半俗生活を営んでいた。彼は、787年(延暦6年)にあらわした霊異記の初稿本を年を追って集成し、822年(弘仁13年)に完成させたとみられている。795年(延暦14年)に伝燈住位を授けられた。