実踐経営哲學

內容介紹

本書は松下幸之助「心得帖シリーズ」の五作目である。本書では松下がささやかな形で始めた事業を、一代にして世界的企業に育て上げた要因を自ら分析して、二十項目にまとめたものである。
自身の言葉を借りれば「六十年の事業體験を通じて培い、実踐してきた経営についての基本の考え方、いわゆる経営理念、経営哲學をまとめた」ものという。
具體的な項目には、「人間観をもつこと」「使命を正しく認識すること」「素直な心になること」など、字面だけでは松下が説こうとすることは摑み難いだろう。しかし、経営に當たる者が、人間とはどういう特質をもった存在であるかを知らずに、正しい経営を行うことができるだろうか。使命感無きところには、為すべきを為す勇気も生まれてはこないだろう。そこに経営の失敗に通じる道を歩んでしまう危険性が生じてくるというわけだ。
経営者はいうまでもなく、課の経営、部の経営に當たる人達にも是非一読を薦めたい一冊だ。
「人間は生成発展という自然の理法にしたがって、人間自身の、また萬物との共同生活を限りなく発展させていく権能と責務を與えられている萬物の王者である」
なんとも伸びやかな「性善説」と厳しい責任意識であろう。その両方に立腳する人間観に貫かれた「経営の神様」松下幸之助の経営哲學に、読む者はたっぷり啓発される。
「すべての顧客に安価な物資を大量に」という松下電器創業時の著者の哲學は、昨今の「顧客をターゲティングして収益率をアップし、事業內容を絞って経営効率を上げる」といった経営手法と相反する発想ではある。しかし、すべての生態系につながる産業活動を自覚した著者の宇宙観には、世紀を越えるダイナミズムがある。本書で論じられることの多くは、「対立しつつ調和しよう」「とらわれぬ心でありのままを見、なすべきことをなそう」など抽象度が高く、即効性のあるビジネス戦略とは種を異にする普遍的「精神哲學」である。
それも不思議ではない。著者は、事業経営は俗事であると思われがちだが、経営者の精神があればそれは芸術たり得る、という理念の持ち主だからだ。確かに、哲學不在の「夢」は普遍性なき私的「欲」の域を出ず、人や時代を動かす力においては卑小だろう。「計畫」や「目標」を越えた理念や哲學を自分は持つか。大きな活動を機動、推進し、人を動かす「精神」がそこに存在するか。本書を手にとった現代の起業家、経営者諸氏は、けっきょく、この自問に帰著するのではないか。
既述のとおり、昨今の「Focus&Deep」の潮流とは相容れぬ発想も含む「水道哲學」をはじめとした理念に、思わず古式ゆかしい香りを嗅ぎ取ってしまう若いビジネスパーソンも多いだろう。しかし、本書を読む意味はむしろ上に挙げた「自問」にある。21世紀の経営者こそ必読の、経営のロマンを思い出させる1冊である。(石井節子)

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